無色透明な優しさ




昔から貴方はとても優しかった

周りからは『真面目な堅物』みたいに言われていたけれど

私は知っていた

貴方がとても優しいことを

それはまるで…





「レイチェル様、本日の惑星データです」
「ありがと、そこに置いといて。あとで目を通すわ」
「レイチェル様、エンジュ様がお越しです」
「オッケー。次の試練のポイントデータを頂戴」
「はい」

聖獣の聖地に移り住んでからどの位経ったのかな
エトワールであるエンジュを見つけて、サクリアを宇宙の隅々まで届けて、
アンジェを支えながら駆け足でここまで来たような気がする

女王補佐官になって充実感は有るものの、言い様の無い寂しさが襲うときもある

そんなときいつも貴方のことを思い出してしまう

だから私は仕事にかこつけて貴方に連絡をした

「もしもしエルンスト?」
『お久しぶりです、レイチェル様』

"様"という言葉が私と貴方の距離を感じさせるから嫌いなんだけど貴方に何回言っても変わらない

「そっちは変わりない?」
『えぇ、陛下の慈愛に満ちていらっしゃいます』
「そう、それは何よりね」

安定しているあちらの宇宙が少し羨ましく思う

創成期の宇宙というのは何もデータが無い上に課題や問題ばかりで毎日が変化に満ちている

昔の自分だったらどんなにワクワクしていただろうか

もしかしたら彼は昔の自分のように期待に満ちてデータを見ているかもしれない

「エルンスト、聖獣の宇宙についてはどう思う?」

問いかけに画面越しの彼が分かりにくいが少し楽しそうに答えた

『大変興味深いですね』

やっぱり、と思い自分も微笑む

『でも宇宙のデータよりレイチェル、貴女のことが気になります』
「え…私?」
『補佐官の仕事が大変なのは分かりますが、休息は取れていますか?』

疲れた頭では良いアイデアも浮かんできませんよ

そう言われて驚いた
私の事よりデータの事ばかり気にしていると思っていた

ただ考えれば、元来彼はとても優しいのだ

その優しさは私を甘えさせるような優しさではなく

私を包み込むような優しさで

色で例えるなら無色透明

まるで綺麗な湖に浸かって漂っているような安心感がある

昔からそんな貴方の優しさに何度も救われている

「エルンストはいつも優しいね」
『レイチェルのことが心配なだけです』

自分の言葉に恥ずかしくなったのか、鼻の頭を紅くして顔を背けた

その仕草がまた可笑しくて私は笑みを溢す


そういえば私が聖獣の聖地に行くと決まったとき

結局、出発間近に慌てて見送りに来て

「貴女が遠くに行ってしまっても、私は貴女を想っていますから」

って今よりも顔を真っ赤にして、でも視線はそらさずに言ってくれた

「いつも心配してくれてありがとう」

久しぶりに穏やかな気持ちになって微笑む事が出来た気がする

『貴女は聖獣の宇宙の補佐官なんですから当たり前です』

なんて尤もらしく言ってるけど少し嬉しそうに見えるのは私の気のせいかしら

「じゃあ私はもうひと頑張りしてくるわね」

『わかりました。ではまた後日』

「ええ」

通信を切って1つ伸びをすると私は部屋を後にした


貴方が私を見守ってくれているから

貴方が水のように優しさで包んでくれているから


その『無色透明』な優しさで