月の蒼さを知った夜


どんなに貴女を想っても
決して伝えられない
伝えてはいけない


私の想いは貴女を困らせるだけだと分かっているから



けれどその困った顔ですら愛しいと想ってしまうのは罪なのでしょうか…?



「おはようございます!フランシス様」
今日も貴女の愛らしい笑顔と元気な声に私の心は波を立てる
「ご機嫌よう、レディ。今日もお元気ですね。」
「はい!」

貴女が元気に笑っていられるのも『あの方』が心の拠り所となっているからなのでしょうね
いつか見た寄り添って笑い合うことのできる『あの方』

何度自分が『あの方』に成り代わりたいと思ったでしょうか

でもそれは叶わぬ願い
望むことすら禁じてしまわねば

貴女を哀しませたくはない

でも
貴女を心が欲している

正反対の気持ちを抱えながら、貴女に微笑みかけるのは、私に課せられた罪なのですね

貴女を愛しいと想いながらもこの腕で抱き締めることは許されず
かといって貴女を邪険に扱うことも出来るわけがなく

心の歪みを抱えたまま一人眠る日々

夢の中の貴女は私に優しく微笑みかける

【フランシス様】
(嗚呼、レディ…私の愛しいレディ…)

抱き締めようと腕を伸ばしても、風に舞う花弁のようにすり抜けて微笑む貴女

(何処へ行くのですか…?私のレディ…)
【こちらですよ、フランシス様】

夢のような色とりどりの花畑の中を駆けていく貴女

(待って…待ってくださいレディ…!)
【こちら、こちらです…フランシス様】

貴女の走っていく先に見覚えのある後ろ姿が現れる

【―――――様!】
貴女が華開いたように微笑む
私にはこれから先も向けてくれないような微笑みで

(…待って!行かないで…行かないで下さい、レディ…!)

手を伸ばしても、声を掛けても、振り向かない貴女

まるで私の声など聞こえてないかのよう

「…レディ…!」

ふと気が付くと自室のベッドの上で

今までの光景は夢の悪戯だったよう

私はベッドを出て窓辺に立つと空を見上げた

「…あんな、夢を見るなんて…」

ビロードの様な夜空の蒼い、冷たい月が浮かんでいた

それはまるで夢の中の貴女の背中のようで

私は一筋の涙を流した




END