Sunshine Party
「にゃー」 「どうしたの?エルヴィン」 お昼も少し過ぎたころ、陽だまり邸の自室で本を読んでいるアンジェリークの元へ、白い猫が擦り寄ってきた。 「にゃ」 エルヴィンは先ほどから部屋の入口へと視線を向けている。 「なーに?外に出たいの?」 アンジェリークは窓から見える空に視線を移し、エルヴィンを抱き上げる。 窓からは一面抜けるような透明な青空が広がっていた。 そこに存在を示すかのように堂々と輝く太陽はアンジェリークたちの住む大地、アルカディアを暖かく照らす。 窓を開けると部屋へと柔らかい風が吹き抜ける。 窓から下を見下ろせば、庭に咲いた可憐な花々が風に揺れ、踊っているかのように見える。 「今日はとてもいい天気だものね。お散歩でもしましょうか」 アンジェリークはエルヴィンを抱いたまま部屋を後にした。 廊下へと出たところで、甘い香しい匂いが鼻腔をくすぐる。 エルヴィンの尻尾が上下に動いた。 「あら、いい匂いがするわね」 どうやらその匂いは1階から上ってきているようだ。 その香りに誘われるようにサルーンへと降りる。 そこでレインと会った。 「よう、アンジェ。お前もこの匂いが気になったらしいな」 「レインも?」 甘い香りに誘われてきた2人は香りの素であるキッチンを覗く。 そこではジェイドがお菓子を作っているところだった。 「やあ、アンジェ、レイン、エルヴィン。アップルパイを焼いているからみんなでどうだい?」 2人に気付いたジェイドが微笑みかける。 「アップルパイか、いい選択だな、ジェイド。それなら俺は紅茶の用意をするよ」 ジェイドの言葉にレインが嬉しそうに紅茶の用意をし始める。 アップルパイはレインの大好物だ。 そんな2人を見て、アンジェリークはくすりと微笑む。 「いいですね。お天気もいいですし、折角ですからサルーンでお茶にしませんか?」 私、用意をしてきますね。そう言ってアンジェリークは中庭へと向かった。 アンジェリークは中庭のテラスの椅子へとエルヴィンを一度おろす。 「エルヴィンはここで待っていてね」 そう微笑みかけると、陽だまり邸の中へと向かった。 テーブルクロスやティーカップ、花などを取りに行ったのだ。 お茶の用意も整い、ジェイドがアップルパイを切り分ける。 綺麗に飾り付けられたテーブルにはカップが3つとお皿が3つ。 綺麗に並べられていた。 今この陽だまり邸にはアンジェリークとレイン、そしてジェイドの3人しかいない。 ニクスとヒュウガは、用事があるからと、朝食のあと、2人で外へと出かけて行った。 ジェイドが切り分けたアップルパイをお皿へと移していく。 そこへ… 「へー、いい香りがすると思ったら、こんなところでお茶とは優雅だねー」 軽快な声が響き、全員で声のした方へと向き直る。 「ロシュ?どうしたの?」 声の主を見て、アンジェリークが少し驚いた表情を作る。 「アンジェ、お前に会いたくなってね」 そう軽い調子でアンジェリークへと笑顔を向ける。 「ロシュはまたそういうことを言ってからかうんだから」 ロシュの言葉にアンジェリークがそっぽを向く。 そんな彼女の様子を見てロシュは、事実なんだけどな、と心の中で軽く笑う。 アンジェリークに会いたかったというのも本音ではある。 けれど、本当のところはベルナールに用事があり、ウォードンタイムズを訪ねたものの、 肝心のベルナールを見つけることが出来なかった。 もしかしたらここかもしれない、と陽だまり邸へとやってきた。 玄関の前まで来たところで、とても甘い香りがするので、何かと思い、庭へとやってきたということだ。 「ナイスなタイミングでのご登場だな」 ティータイムを始めようとしたちょうどその時にやってきたロシュに、レインが面白そうに声をかける。 「まあな。こういうことには鼻が利くもので」 レインの皮肉も交えた言葉にロシュは軽い調子で返した。 「ロシュもよかったら一緒にどう?人数が多い方が笑顔も溢れて、お茶会も盛り上がるよ」 ジェイドが笑顔をロシュに向ける。 ジェイドの言葉に、ロシュはもちろんと言いながら、空いている椅子へと腰掛ける。 3人だったお茶会が4人になり、陽だまり邸の中庭に楽しげな笑い声が広がる。 タイプが違うように見えるレインとロシュの2人は、それでもどこか気が合うらしく、 お互い軽快なトークを交わしている。 年が近いこともあり、話しやすいのかもしれない。 アンジェリークもまた、レイン以外にも年の近い友人が出来てとてもうれしかった。 4人で楽しげに話をしていると、ふと暖かい風が吹いた。 暖かさの中に適度な冷気を含んだ風は、肌に心地いい。 柔らかな風がアンジェリークの髪をなでる。 「今日はまた一段と心地いい陽気だね〜。こんな風にのんびり過ごすのも悪くないね」 ロシュが持っていた紅茶を飲み欲し、ソーサーの上にコトンと置くと、思い切り伸びをした。 「こんな日は昼寝でもしていたくなるな」 レインが楽しげに笑う。 「エルヴィンはこの陽気で気持ちよく眠ってしまったみたいだよ」 ジェイドが隣の椅子に丸くなって眠っているエルヴィンの背を優しくなでる。 「こいつはお気楽過ぎだ」 その様子を見てロシュが軽く笑う。 「ロシュったら」 ロシュの言葉にアンジェリークが呆れたように笑う。 それにつられてレインも笑いだす。 みんなの笑顔を見て、ジェイドも笑顔になる。 暖かな陽気。 透明感のある、心地いい風。 そして、降り注ぐ柔らかな光。 平和で優しい光が、ここアルカディアに今日も満ちている。 アルカディア―その名を理想郷 END…