星の海に月の船を浮かべて

「エルンストいる〜?」
とある土曜日。
レイチェルはエルンストの執務室を訪ねた。
エンジュからの定期報告も済み、午後が暇になったので遊びに来たらしい。
「おや、レイチェル。どうかなさいましたか?」
奥から顔を出したエルンストにレイチェルは笑い掛ける。
「今暇かな〜?行きたい所があるんだ。」
「えぇ構いませんよ。」
「ありがと!」
では早速とエルンストの手を引いて彼女はセレスティアに向かった。

「で何を探しているのですか?」
着いたのはセレスティアの書店、リヴル・バランス。
天井に付きそうなほど大きな本棚に沢山の専門誌が並んでいる。
二人は経済関連の棚の前にいた。
「う〜んと、『季刊・経済研究』の夏に出たやつをね〜。買い逃しちゃって。」
上を見つめたままレイチェルが言う。
エルンストはその姿を見ながら微笑んだ。
「何笑ってるのよ。忘れてたんだから仕方ないじゃない。」
レイチェルは頬を膨らませエルンストに向き直る。
「いえ、その号だったら私も持ってますよ。」
笑いを堪えながらエルンストが告げるとレイチェルの顔に笑顔が広がる。
「なぁ〜んだ!そうなら早く言ってよ〜。」
一生懸命探す姿が可愛らしいからなんて言えるわけがないのに。
「いえ、レイチェルが何を探しているのか分からなかったので…」
「あぁそっか〜。そうだよね。」
少し照れた風に呟くレイチェルがまた可愛らしいと思ってしまうエルンスト。
二人で出て行こうとするとレイチェルが本を二冊取り、慌ててレジに並んだ。
「どうしたんですか?」
戻ってきた彼女にエルンストが問掛けると
「内緒〜。」
レイチェルは嬉しそうに紙袋を抱き締める。
エルンストは少し不満げにレイチェルの少し手前を歩く。
今度はレイチェルが微笑んだ。
(いい歳してすぐすねるんだから…)
彼の背中を見ながらレイチェルは昔のことを思い出していた。
神鳥の王立研究院にいた頃。
彼とは只の幼馴じみだった。
(それがこんな関係になるとはね〜)
告白したのはエルンストの方だった。
彼女が女王補佐官になったときに離ればなれになると思い、告白したのだ。
『貴方が好きです。これだけは伝えたくて…』
いつもより更に真剣な顔で。
(あの目が忘れられないな…)
レイチェルが返事をするまで目を見つめられたままだった。
少し赤面をしてレイチェルが頷くと泣きそうな顔をして座り込んでしまった彼。
その姿についつい笑ってしまったことも思い出していた。
「いつまですねてるの?」
少し小走りにエルンストの前まで行くと振り返り紙袋を渡す。
「何、ですか?」
「いいから開けてみてよ。」
何だか良く分からないという顔をしながら紙袋をあけるエルンスト。
中から出てきたのは流れ星の写真集だった。
「レイチェル、これは…」
「好きでしょ?そういうの。」
笑い掛けるレイチェル。
「ありがとうございます…!大切にしますね。」
嬉しそうに本を見つめるエルンストを見てレイチェルは
もう一つの紙袋の中身を見せた。
そこに入っていたのは花のフォトブック。
「陛下に頼まれたの。アリオスが好きなんだって。」
可愛らしいわよね〜、と笑う。
例えアリオスが憎くても
大事な親友に頼まれては買ってこないわけには行かないらしい。
「悔しいけどアンジェには幸せになって欲しいから。」
そう微笑んで歩き出す。
エルンストは心の中で
(陛下もあなたと同じことを考えてますよ)
と呟いた。
「早く帰らないとまたアリオスが陛下にくっついて仕事の邪魔してるわ!」
「たまには良いじゃないですか。」
「そうね。たまには良いかもね〜」
エルンストはそう言ったレイチェルの手を取り
「何処かでお茶でも飲みませんか?」
と微笑んだ。
「何処に行こうか?」
「貴方のお好きなところに。」
「何かその言い方フランシスみたい。」
二人は笑い合いながら歩いていった…

「レイチェル、良いことあったの?」
その夜。
アンジェリークに本を渡すとそう言われレイチェルは首を傾げた。
「そう見える?」
「うん。何かとーっても良いことがあったって顔に書いてあるわよ?」
にこにこと言うアンジェリークにレイチェルは笑顔を返した。
「たまにはアリオスとアンジェにゆっくりして貰うのも良いかもね〜」
「え?」
「何でもないよ。おやすみ。」
そう言って自室に戻っていくレイチェルの後ろ姿を
アンジェリークは頭に疑問符を浮かべたまま見送っていた

レイチェルは自室の窓から夜空を見上げながらエルンストにメールを打った。
内容は…二人しか知らない…

空には沢山の星が誰かを見守っていた…

END


あとがき
新木です!
エルンスト×レイチェルいかがでしたか?
私的にはかなり思い描いていたものとは違いました…。
全国のアンジェリーカーの皆様申し訳ありません!m(_ _)m精進します!
次は何を書くのか決まってません。
私のヘボ小説を此処まで読んで頂きありがとうございました。
新木でした!